Strange Tortoiseの妄想博物館

旅/建築/音楽/美術/芸術/野球/蹴球/おいしいたべもの

神戸・旧乾邸と白鶴美術館

2018年05月26日(土)
2018年4月以降は、なかなか旅に出られる機会がなかった。
そんな中でも、特別公開に応募して当選したのが、神戸の旧乾邸と京都・大山崎の聴竹居だ。
建築家・藤井厚二の自邸である聴竹居は9月に訪問。撮影した写真のWEB公開不可(撮影自体は申請すれば可能)のため本ブログでの紹介はなかなか難しいのだが、昭和初期にオール電化なことや、環境共生実験住宅として気候や立地に馴染む工夫が随所にみてとれる。藤井自らデザインしたモダンなしつらえもみどころだ。
事前申込すれば見学可能なので、興味のある方はぜひその目でご覧いただきたい。
 
聴竹居Webサイト
http://www.chochikukyo.com/
 
現地でこちらの書籍を購入。ガイドブック的に読める一冊でオススメ。
「聴竹居: 藤井厚二の木造モダニズム建築」 (コロナ・ブックス)
 
さて、神戸の旧乾邸は年2回ほど特別公開の時期が設けられている。神戸市のWebサイトに募集要項が出るので要チェックだ。
この日は日帰りでの見学。まず新幹線で新大阪へ。大阪(梅田)で阪急線に乗り、最寄駅の御影まで約30分の道のり。阪急梅田駅もなかなか壮観。おしゃレトロな車体もよい。沿線の雰囲気は東京で例えると東急東横線田園都市線か、というところだろうか。
阪急御影駅から北側の邸宅地を歩くことおよそ15分で旧乾邸に到着。
この御影エリアだけでも「阪神間モダニズム」を代表する建築が数多く残されている。旧乾邸はその代表格といえるだろう。
旧乾邸は、乾汽船株式会社を設立した乾新治氏の自宅として昭和11(1936)年頃に建てられた。設計は渡辺節。神戸市指定有形文化財となっている。
 
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まずは外観。
 
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車寄せからしてすでに好みの物件。タイル張りの天井は、東南アジアの竹で編んだ天井を想起させるエキゾチックなデザイン。
 
正面玄関は、美しいグリーンのタイルに西アジア風なモチーフの壁画がお出迎え。ここだけですでにワクワクする。
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玄関ホールもまたすばらしい。3階までの吹き抜け。チーク材の階段の手すりの装飾は一刀彫。

壁にかけられた大きなタペストリーは安芸の宮島がモチーフで、この家を設計した渡辺節から乾家に贈られたものだそうだ。
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美しい一刀彫の手すりよ…
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この手すりは3階のサンルームまで続く
 
はじめに、見学者一行はゲストルームに通され、建物の概要の説明を受ける。
優雅な雰囲気の中で、ピアノとフルートのミニコンサートも行われた。
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シャンデリアは当初のものではなく、新調したものらしい。
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左上の小窓は後ほど…。天井の縁取り装飾がかっこいいんだよな。
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ゲストルームと2階をつなぐ階段。ここから主人が「やぁやぁ」とか言いながら登場したのだろうか。

まずは、ガイドさんについてひとまわり。途中脱落しても可能。その後は自由見学。
テラスでひと休みできるカフェも開催されていたが、わたしは見学に時間を回した。
ここからは各部を写真で紹介。

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ゲストルームに続く食堂(見学者の写り込みが多く上部のみ)。レトロな照明がかわいらしい。
 
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食堂から婦人室(和室)へ続く次の間
 
続いて、2階へ。
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主人寝室。現在は応接セットが置かれている。
 
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そして、主人寝室からゲストルームを見おろす小窓。ここで来客の様子を窺っていたのだろうか。
 
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中央に浴室をはさんで、
 
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婦人寝室へ。家具がかわいらしいのだ。
 
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婦人寝室の作りつけの収納。これだけあれば箪笥とか必要がない。
 
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衣装部屋。この邸宅は、どの部屋も作りつけの収納が充実していて感心しきり。
 
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庭園からの外観はいかにも神戸の洋館といった風情。
これまで神戸の個人邸宅はいくつか観てきたけれども、芦屋のヨドコウ迎賓館は別格として、こちらの旧乾邸はもしかしたら最高峰かもしれない、と思った。
 
白鶴美術館
旧乾邸の近くには、白鶴美術館がある。白鶴酒造七代嘉納治兵衛が設立した私立美術館。昭和9(1934)年開館。
嘉納治兵衛は奈良の生まれで幼い頃から古美術に親しみ、主に日本と中国の古美術品を蒐集した。この日は香炉など、仏教の荘厳具をテーマにした展示が行われていた。奈良の寺院伝来のお経や仏具などもあり、失礼ながら予想以上に良品があり大変見応えがあった。
建築も奈良へのオマージュなのか?的なところが随所に感じられて、興味深い。
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和風の大邸宅の入口のよう。石に館名が彫られている。これも御影石
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中央の燈籠は東大寺のものから型を取って作ったものらしい。本館は東大寺大仏殿に見立てたのだろうか。
 
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館内の階段室は花頭窓風、装飾は法隆寺卍崩しの高欄を思わせる。
 
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照明には鶴の模様が施されている。
御影にはこのほかにも実業家の蒐集品による美術館がある。
朝日新聞社の創業者・村山龍平の旧邸宅地に設立された香雪美術館である。
このほか、旧財閥(住友、野村)や、伊藤忠大林組武田薬品工業など大企業の創業家の邸宅が立ち並んでいた。
朝日の村山が嚆矢となり、商いの主戦場である大阪にも通いやすく、それまでにない職住分離というスタイルをこの地域で確立していったのだ。
そういった土地の歴史も紐解いていくと、邸宅の建築見学もより味わい深いものになる。
 

建築探訪6日間の旅~或いは、センチメンタルジャーニー~6日目・近江八幡

2018年3月26日(月)
長いようであっという間の6日間の旅もいよいよ最終日。
今日の予定は、ヴォーリズ建築めぐりとラコリーナ近江八幡
前日、駅の観光案内所でヴォーリズ巡りマップや資料を入手したので、それを片手にぶらり散策。

まずは、ヴォーリズ建築ではないが、現在、観光案内所となっている白雲館。
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白雲館
1877(明治10)年、当時は八幡東学校として設立。
その後、役場、郡役所、信用金庫として活用され、1994(平成6)年に建築当時の姿に復元。
開智学校(長野県松本市)と似ている同時期の疑洋風建築。
 
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近江八幡市立八幡小学校
1873年明治6年)開校の市内で最も古い小学校。
現在の建物は比較的近年に改築されたのだろうか、きれいだった。

以下、おおよそ巡った順にヴォーリズ建築を紹介していく。

前日、駅近くを散策していて偶然見つけた教会。
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日本基督教団近江金田教会
1950(昭和25)年 登録有形文化財
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八幡商業高等学校
1938(昭和13)年
滋賀県立商業学校。ヴォーリズも英語教師として赴任していた
 
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市立資料館(旧近江八幡警察署)
1953(昭和28)年増改築
※改修工事中のため、中に入れず
 
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旧八幡郵便局
1921(大正10)年
内部を無料公開
 
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郵便局の裏側はこんな木造和風になっている
 
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2階は資料展示室がある。こういう廊下好き
 
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アンドリュース記念館
1935(昭和10)年 登録有形文化財
元は1907(明治40)年に近江八幡YMCA会館として建てられたヴォーリズ建築第1号
 
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近江八幡教会牧師館(旧近江兄弟社地塩寮)
1940(昭和15)年
 
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ヴォーリズ記念館
1931(昭和6)年 滋賀県指定有形文化財
晩年のヴォーリズ夫妻が暮らした家。
この日は休館日だったので、門の外から外観のみ。
 
ヴォーリズ記念館の裏手に回ると、ヴォーリズ学園(近江兄弟社高校)がある。
門の外から覗く不審人物ぶりを発揮していたら、中の人が「見学できますよ!」と案内していただく。
そこが、ハイド記念館・教育会館だった。先生がご案内してくださった。
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ハイド記念館・教育会館(ヴォーリズ学園内)
1931(昭和6)年 登録有形文化財

ヴォーリズに共感したハイド家(メンソレータム創始者)の寄付により建てられたもの。
2003年3月まで幼稚園舎として利用されていた。その名残が随所に見られる。
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子どもの大きさに配慮した階段の段差
 
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窓枠が十字架
 
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階段の下は引き出しが
 
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保健室とその奥の休息室
 
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丸窓を開ける体験をさせていただく
 
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講堂は吹奏楽部が練習中だったが、案内していただき、見学。

思いがけず、ヴォーリズの思いが詰まった建物をじっくり見ることができた。

さて、ここでランチタイム。
一度訪れてみたいと思っていた「ラ コリーナ近江八幡」へ。

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藤森照信氏による山のような建物が印象的。
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ここでは、カステラショップのカフェで、カステラたまごのオムライスセット。とろとろたまごに和風だしでご飯は古代米の黒米。
セットのカステラは焼きたて八幡カステラ。別添の餡をつけていただく。どちらもふわとろでたまご好きのわたしにはたまらない。
 
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デザートには、バームソフト(桜味)を。サブレも美味しい。
ランチとデザートの後は、バスでふたたび、最後の街歩きへ。
池田町というところにいくつかヴォーリズの洋館が並んでいるらしいので、行ってみることに。
 
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ウォータハウス記念館(右)
1913(大正2)年 登録有形文化財
吉田悦蔵邸(左奥)
1913(大正2)年 登録有形文化財
 
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ダブルハウス(旧近江ミッションレジデンス)
1920(大正9)年  

最後にひとつ、気になった「初雪食堂」。
ドコモのCMで桑田圭祐がロケにきたところらしい。
次回この街を訪れるときはぜひ入ってみたい。
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さて、長いようであっという間だった6日間の旅も終わりを迎える。
初めて訪れる遠くの街、その土地土地に残る素晴らしい建築を観て歩いた経験は、わたしの人生を豊かなものにしてくれる。
ずっとこんな旅をしていたい。この旅がまだまだ続きますように…。

帰りの新幹線でずっと聴いていた、最終日のテーマ曲:Travels/川村結花
https://itunes.apple.com/jp/album/travels/1078843046?i=1078843052
”たとえば1日だけでもいい 旅が長く続きますように”
 
近江八幡旅の参考に】
一粒社ヴォーリズ建築事務所 ヴォーリズとは
http://www.vories.co.jp/vories/
近江八幡観光物産協会 ヴォーリズ建築を尋ねて訪ねて~モデルコース~
http://www.omi8.com/annai/course3.html

建築探訪6日間の旅~或いは、センチメンタルジャーニー~5日目・神戸から近江八幡へ

2018年3月25日(日)
数年ぶりに会ったひとに、思わず「綺麗になったね…」と言いたくなった。そんな建築。
それは御影公会堂。
昨年リニューアルし、今年度は重要文化財に指定の運びとなった。
角丸もさらに可憐に美しく生まれ変わった。
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春が来て君は綺麗になった
 
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横顔もかわいいよ…
 
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後姿だってこんなに可憐
 
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上品なエントランス
 
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この裾広がりの階段とくるんとした手すりがたまらなくキュート!
天使がウィンクしそう。

そんな御影公会堂の地下には美味しい洋食がいただける食堂がある。
以前も一度訪れて、味はもちろん、店内の空間もステキで気に入ったのだった。
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昭和なサンプルケースがそそる
 
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やさしい味のオムハヤシ

昼過ぎに神戸を後にし、この旅最後の目的地へ向かう。
 
未だ知らない街へゆく
三ノ宮から一路、野洲へ(道中爆睡)。野洲で乗り換えて近江八幡へ。
なぜこの地に?かというと、わたしの父方の祖母の家系が近江商人だったらしく、なんとなくルーツをたどりに来てみたかったのだ。
もちろん、ヴォーリズの建築めぐりも目的のひとつだ。
まずは日牟禮八幡宮にお参りし、近江商人の街並みや八幡堀などを下見的にぶらり。
建築めぐりやまち歩きは明日ゆっくりと。
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近江商人の街並み
 
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日牟禮八幡宮は夕刻も参拝者が途絶えなかった
 
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八幡堀
 
そして夕飯時。近江に来たら、やはり近江牛
通りがかった近江牛のお店「まるたけ近江 西川」で、近江牛づくし弁当をいただいた。
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手ブレで失礼
 
食後のデザートも欲しいところで、近江八幡駅前にいい感じの喫茶店喫茶ライフ」を発見。
チョコレートパフェが予想以上にフルーツたっぷりで美味しかった。満足。
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正しい喫茶店のパフェ。期待以上でした

この日の脳内ヘビロテもしくはテーマ曲:知らない街へ行こう/空気公団
”知らない街へ行こう たくさんの気持ちを抱えて 次の角を曲がってみよう”

建築探訪6日間の旅~或いは、センチメンタルジャーニー~4日目・神戸

2018年3月24日(土)
朝はホテル近くのベーカリーカフェ「コム・シノワオネストカフェ」でちょっと贅沢な朝食を。
全種類食べたくなるくらい、どれも美味しそうだし、実際、とても美味しかった。神戸のパンはほんとうにレベルが高い。
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午前中は舞子へ向かい、孫文記念館(移情閣)へ。前回の舞子来訪時に修復中だったので再訪し、中を見学。
もとは実業家・呉錦堂の別荘「松海別荘」に、八角形の楼閣「移情閣」が建てられたもの。
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孫文記念館(移情閣)
1915(大正4)年 重要文化財
 
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八角形部分の天井装飾、復元された金唐紙の壁も美しい
 
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窓からは明石海峡大橋が。絵になる
 
海辺や松林をちょっと散策し、前回入って気にいった駅ビル内の庶民的な喫茶店リア珈琲」で明石海峡大橋を眺めながらランチ。
山陽本線で海を眺めながら三ノ宮へ戻り、一旦休憩。次の目的地へ。
 
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明石海峡大橋を望む喫茶店「リア珈琲」の生姜焼きランチ
 
今回の旅で、唯一日程が決まっていたのが神戸税関の特別公開だ。
年に数回、一般公開をしているようだが、この日は春の特別企画として、元貴賓室、中庭、庁舎屋上が公開された。
私の大好物の角丸物件。中に一歩入ると、やはり角丸部分の吹き抜けに見惚れる。
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美しき角丸物件。神戸税関
 
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ただひたすら美しい…
 
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質実剛健という趣の階段のアイアン
 
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屋上へは新館のエレベータから。こちらの吹き抜けも圧巻
 
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屋上からの景色。山と海が迫る神戸の風景を楽しめる

ここで神戸在住の友人と合流し、旧居留地のあたりを散策&食事へ。
いつもそのGood suggestionが光る、わたしの神戸旅のアンバサダーのような存在。
夕食はその彼女が気になっていたというお店、元町高架下の台湾料理の「丸玉食堂」へ。ひとりだとなかなか入りにくい感じの店構えだが、2人で思い切ってその扉を開ける。
メニューは中華とは一味違う、自家製みそだれをつけて食べるモツ系が充実している。焼きそばや揚げものも美味しかった。
そしてお酒の濃さよ…。
 
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どれも美味しゅうございました

シメの喫茶は、いつもの「ホープ洋装店」へ。初めて和室の方の席へ通される。
わたしはコーヒーフロートと自家製ベイクドバナナチーズケーキをいただく。
美味しさと居心地の良さを再確認。そして、相変わらず絶妙なBGMがたまらない。ここをもう神戸の実家とよばせていただきたい。

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もはや神戸の実家
 
明日も1軒、神戸の名建築を訪ね、次の目的地へと向かう。
 
 
この日の脳内ヘビロテもしくはテーマ曲:塩屋/大江千里
http://www.nicovideo.jp/watch/sm22597060
”この場所だけは彼氏と来るなよと 大人気ないこと言うぼくが嫌だよ”

建築探訪6日間の旅~或いは、センチメンタルジャーニー~3日目・門司港

2018年3月23日(金)
ホテルの朝食バイキングがすばらしかった。いつもはビジネスホテルの簡素な朝食バイキングなのでこれはとても新鮮。
和洋食あるが、わたしは洋食中心に、サラダ、フルーツ、パン(自家製ジャムが数種類)、そして門司港名物の焼きカレーも。焼きカレーはランチにするつもりでいるが、やはりこのホテルの味もいただいておきたい。
さらに、朝からスパークリングワインも置いてある。ちょっと気になったが自粛。和食もチラ見したところ、明太子や高菜粥など名物があるようだ。ここはやはり1泊ではもったいない。いくつもの朝を門司港で迎え、この朝食を何度でも何度でも食べたい。
 
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美味しくて食べ過ぎた
 
そんなわけで少々食べ過ぎてきついお腹をかかえて街歩きに出発。
まずホテルからもほど近い旧大阪商船ビルをちらり。そして旧門司三井倶楽部へ。1921(大正10)年に三井物産の宿泊施設・社交倶楽部として現在より山側の土地に建てられたが、門司港レトロ地域開発にあわせて現在地に移築された。ここは大正時代にアインシュタインが宿泊した部屋が再現されており、また、門司出身といわれる林芙美子の資料室もある。1階にはレストランと観光案内所もある。案内所で街歩きの所要時間やオススメの焼きカレー屋を尋ねてこの建物を後にした。
 
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旧門司三井倶楽部
1921(大正10)年
重要文化財/近代化産業遺産
 
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アインシュタインが宿泊した部屋を再現
 
門司港レトロエリアは1時間くらいで歩いてまわれる距離、と言われたが、それは単純に移動距離だろう。わたしは建物を見たり、裏路地に入ってみたりするのでもっとかかってしまうはずだ。

スタンプラリー台紙も入手したので、ひとまずそこに載っている場所に行ってみることに。
ちなみにこのスタンプラリーは集めても何かもらえるわけじゃないのが逆にすごい。だが、それでも集めたくなってしまうのがスタンプラリー。
 
まず、スタンプラリーには入っていないが見たかった角丸物件、門司電気通信レトロ館へ。こちらは山田守設計の旧逓信省門司郵便局電話課庁舎。中では昔の電話機や交換機などを展示している。携帯電話なんかも型式編年で並んでいる。平野ノラの「しもしも~?」でおなじみのショルダー式電話機は重さを体験することもできた(3kgぐらいある)。展示も楽しめる歴史的建造物だ。
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門司電気通信レトロ館(旧逓信省門司郵便局電話課庁舎)
設計:山田守 1924(大正13)年
近代化産業遺産
 
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公衆電話の型式編年展示
 
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こちらは携帯電話。しもしも~?

次に、港のエリアへ。
タワーマンションの最上階が展望施設になっている門司港レトロ展望室へ。壇ノ浦など関門海峡を眼下に眺めることができる。
ちなみにこのタワマン「門司港レトロハイマート(1999年)」の設計者は黒川紀章である。
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展望室からの眺め
 
対岸の下関は意外と近い。船で5分ほどで渡れるようだ。次回は門司を拠点に下関へも足を伸ばしてみたい。
そして、ランチはもちろん焼きカレー焼きカレーマップも駅や観光案内所でもらえる。
観光案内所で薦められた、第1回焼きカレー倶楽部コンテストで1位を獲得したという「CAFE DINNING BEAR FRUITS」へ。やはり人気店らしく混雑しているが、運よく席が空いていた。
焼きカレーは食べ比べてみないとわからないけれど、案外どこも大差ないのでは…という気が。
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これが噂の焼きカレー。マンゴーラッシーとセットで。

以下、巡った建築を紹介。
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旧門司税関
1912(明治45)年
近代化産業遺産
1927(昭和2)年まで庁舎として使用、その後、民間に売却され、倉庫として使われていた。
1995年、門司港レトロ地区整備に合わせて復元。現在は税関広報展示室、カフェが入っている。
 
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北九州市立国際友好記念図書館(2018年3月末で閉館、10月に観光施設としてリニューアルオープン予定)
北九州市と中国・大連市の友好都市締結15周年を記念して1995年、竣工。
大連にあったロシア帝国による東清鉄道汽船会社事務所(1902年)の建物の複製建築。
1階の中国料理レストランは営業中とのこと。背後の高層建築が展望室の入るタワマン。
 
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旧大阪商船門司支店
設計:河合幾次 1917(大正6)年 
登録有形文化財/近代化産業遺産
現在はギャラリーやアート雑貨のショップ、カフェなどが入る施設になっている。
 
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ホーム・リンガー商会 
1962(昭和37)年
建物は比較的新しいが、由来は長崎で1868年にイギリス人貿易商のフレデリック・リンガーとエドワード・Z・ホームが設立したという企業。当時の日本人従業員が戦後再開し、現在は船舶代理業を行っている。
ちなみに、リンガーの旧宅(重要文化財)は長崎のグラバー園に遺されており、その名はリンガーハットの店名の由来にもなっているというトリビア
 
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夜の旧大阪商船とホーム・リンガー商会。異国の風景のよう
 
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旧大連航路上屋
1929(昭和4)年
設計:大熊善邦
もともとは門司税関1号上屋として建設され、門司港の国際旅客ターミナルとして使われた建物。
出入口の半円形の監視室が印象的なアールデコ建築。
現在では、ホールや多目的スペースなど、アート施設として利用されている。
また、映画資料を集めた「松永文庫」があり、門司港出身の松永武氏のコレクションを展示している。
 
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九州鉄道記念館(旧九州鉄道本社屋)
1891(明治21)年
登録有形文化財/近代化産業遺産
本館は九州鉄道会社の本社として建てられたもの。
外にはSLや昔の特急列車も展示されている。ショップには楽しい鉄道グッズがたくさんあり、ついつい購入。
 
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三宣楼(突きあたりの木造建築)と萬龍

三宣楼は昭和6年築の木造3階建の料亭。
現存する木造3階建ての料亭の建屋としては九州最大級の規模とのこと。
中には展示室もあり、見学できるようだが、時間の都合もあって残念ながら今回はスルー。
こちらは解体の危機を市民の力で保存再生されたものと知り、ますます興味深い。
https://www.homes.co.jp/cont/press/reform/reform_00616/
 
その三宣楼に行く途中の気になる建物、中華料理 萬龍。
既に閉店し、近くに移転営業しているようだが、かつては貿易協力會舘という建物だったらしい。
 
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日本郵船ビル(旧日本郵船 門司支店)※外観のみ見学
現在の建物は昭和2年のもの。当時のエレベーターが現役らしい。
改修を重ねて当初のアールデコ装飾は一部に残るのみ。
 
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北九州銀行門司支店(旧横浜正金銀行門司支店)※外観のみ見学
設計:桜井小太郎 1934(昭和9)年

門司港の観光情報はこちら

夕刻、小倉から新幹線で一路、次の目的地・神戸へ。
 
この日の脳内ヘビロテもしくはテーマ曲:「そして神戸」内山田洋とクールファイブ(1972年)
“そしてひとつが終わり そしてひとつが生まれ 誰か うまい嘘のつける相手捜すのよ”
 

建築探訪6日間の旅~或いは、センチメンタルジャーニー~2日目・北九州

2018年3月22日(木)
朝食はホテル併設のレストランにて。
お母さん手作りの朝食という感じで、美味しかった。
そして、朝9時から楼門の見学ができるというのでいそいそと向かう。
※見学会は2019年3月31日までの期間限定
 
受付を済ませ、楼上へ。
ボランティアガイドさんが詳しく説明してくれる。
天井の四隅にいる干支(酉・子・卯・午)の彫絵がウリなのだが、なぜかというと、同時期に建てられた東京駅駅舎の天井には、ここにはない残りの8つの干支がある。
つまり、この楼門の干支と合わせて十二支が揃うというのだ。
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楼門の2階の格天井の四隅の干支の彫絵。通気口の役目だそうだ

辰野金吾が意図したものかどうか、諸説あるようだが、ここではロマンとして語りたい面もあるらしい。
楼門と新館の建築については、改めて別立てで記事にしたいと思う。
 
さて、昼前の特急で次の目的地へ向かうのだが、武雄温泉駅で気になる駅弁を発見。
ちょっとお高いけれど、電車の中でのランチタイムにちょうどよい。
佐賀牛極上カルビ焼き弁当。これが、わたしの駅弁人生の中で頂点に躍り出たのだ。
冷めていても美味しい。ちゃんと牛肉の味がする。いい肉最高!
孤独のグルメ」ばりに脳内であれこれ独りごちながら味わう。

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うれしの茶と共にいただく「佐賀牛極上カルビ焼肉弁当」

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冷めていてもほんとうに美味しかった。値段は2000円弱也
 
そんなこんなで博多着。ここで次の特急ソニックに乗換え、小倉へ。
博多~小倉間は思っていたより距離があった。
 
小倉では、TOTO MUSEUMへ。
TOTO本社隣に、その外観からもそこはかとなく衛生陶器を思わせる建物がある。
ショールーム的な役割もあるようで、リフォームや新築のお客様を営業マンが案内している様子も見られる。
企業のあゆみ、食器の歴史から、水回りの製品を時代を追ってこれでもか!と展示しているコーナーが圧巻。
便器、洗面台、ユニットバス、水栓金具等…歴史的建造物のトイレやバスルームの再現部分もあり、思わず長居をしてしまった。

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これだけ楽しめて、入館無料。
ミュージアムグッズもかわいいものがあったので、つい買ってしまう。
 
TOTO MUSEUMを後にして、旦過市場を少しふらりと。旅先では商店街や市場を訪れるのも楽しみのひとつだ。
ここはとても活気があり、生鮮食品が安い。近所にあったらいいなぁ。

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活気ある旦過市場

移動でちょっと疲れたので、駅ビル内のカフェで糖分補給しながら思案。迷った挙句、八幡へ向かうことに。
八幡には村野藤吾の建築が残されている。
実は、そのうちの八幡市立図書館(1955年)が見たかったのだが、旅の直前になんとなく調べていたら、すでに解体されて建替えられてしまったというのだ…。

もう一つ、八幡市民会館(1958年)も、老朽化で閉館してしまったが、建物自体はまだ保存されているようだ。
現役の建物は福岡ひびき信用金庫本店(1971年、旧北九州八幡信用金庫本店)のみだ。
駅前から皿倉山へ向かうようにのびる広い道路を歩くと、左角にその建物が見えてくる。

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福岡ひびき信用金庫本店(1971年、旧北九州八幡信用金庫本店)

同じ金融機関建築だからか、ほぼ同時期の大手町の旧日本興業銀行本店ビル(1974年、現存せず)をちょっと思い出す。
そして、やはり窓がかわいい。わたしはそれらを「村野窓」と呼んで愛でている。
ついでなので、市民会館と図書館があった場所まで行ってみた。
市民会館は隣の工事現場の資材置場や駐車場になっていて近くでよく見ることができなかった。
図書館はいかにも現代的な公共建築にとって代わられていた。
 
日没も近づいてきたので、いよいよこの日の目的地、門司港へ。
門司港駅に着いた瞬間から、この港町に惚れている自分がいる。
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もう惚れざるを得ない佇まい

宿泊は、プレミアホテル門司港旧門司港ホテル)。ほぼ駅前と言える立地、イタリアの建築家アルド・ロッシによる建築(1998年)。
出来たときはちょっと話題になったような覚えがある。
ビジネスホテル並みの価格のお部屋お任せプランにしたのだが、レトロ街に面したいい感じの風景が見えるツインルーム。
窓の外はまるでイタリアの港のようだ(行ったことないけど)。すでに1泊じゃもったいない気分になっている。

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アメリカの貨物船が桟橋で待ってるよ

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絵になる眺め

駅で仕入れたパンフを参考に、夕食は回転寿司(といっても回っておらず、タッチパネル注文形式)へ。
ふぐ白子軍艦、アラ、鰆、かますの炙りなど、関東ではあまりなじみのないネタを中心にいただいた。
シャリが小さいので永遠に食べられそうだったが、予算的に適当なところで切り上げた。
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ふぐ白子軍艦。美味しゅうございました
 
夜の街を少し散策し、翌日のプランをぼんやり立てながら、ホテルへ戻る。
 
この日の脳内ヘビロテもしくはテーマ曲:「道」森高千里(1990年)
”町も坂も橋も駅も 川も船も鳥も港も あなたの思い出 忘れないわ”

建築探訪6日間の旅~或いは、センチメンタルジャーニー~1日目・佐賀

人生の中休みも終わりを迎えようとしている3月半ば。休み最後の旅に出た。

台湾くらいは行けなくもなかったけど、あまり日もなく、急に決めたので、今回は国内をだらだらぶらりとすることに。
ぼんやりと「行ってみたいな~」と思っていた場所を繋いだら、やっぱり「建築探訪」というテーマができあがってしまった。
そんなわけで、佐賀・武雄~北九州~神戸~近江八幡への旅。
行く場所はざっくりと決め、一部を除いて詳細なプランニングはない。思いつきでフレキシブルに動いてもいい。そんな感じで。

2018年3月21日(水・祝)
どうせ九州に行くなら、スターフライヤーに乗りたい。
あのスタイリッシュな機体と内装。タリーズのコーヒーもいただけるし。
というわけで、まずは福岡 or 北九州着いずれかになる。
日程や目的地も考慮し、まずは羽田→福岡へ。
空港から地下鉄で博多に移動すると、ちょうどランチタイム。
普段はラーメン屋に入ることはほとんどないのだが、せっかくの博多、駅ビルのとんこつラーメン屋に。
ここがなかなか美味しいお店で、珍しくスープまで飲み干してしまった。

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博多駅ビルの「博多ラーメン 一杢」
 
この日の目的地は、佐賀・武雄温泉。
「佐賀にたしか、辰野金吾の楼門のある温泉があったな。嬉野だったっけ?」と検索したところ、それは武雄温泉だった。
しかも、大正4年(1915年)4月12日に完成した、とある。
「あらやだ、わたしったら楼門と誕生日が一緒だなんて…これは行くしかない!」と決めたのがコトの発端。
※筆者は元来、神社仏閣などの門に魅せられた”門ヲタ”である
 
行き方や宿を調べたが、やはり一人で泊まれそうな温泉宿はなかなかなさそう。
というわけで、温泉街にある鄙びたビジネスホテルを予約。武雄温泉入浴券付プランにした。
博多からは特急みどり佐世保行きで1時間10分ほど。15時過ぎに武雄温泉着。

宿でひと息ついたら、楼門へ。
まずは外観のみ堪能。翌朝の楼上見学タイムを楽しみに待つ。
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これが武雄温泉の楼門!

門をくぐった正面にある武雄温泉新館も辰野金吾による建築。現在は資料館となっている。

男湯の浴槽の床はマジョリカタイルになっている。2階の広間、廊下もいい感じ。
東京駅駅舎の建設とほぼ同時期に、辰野は故郷・佐賀に竜宮城のような温泉リゾートを手がけていたのだ。

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武雄温泉新館。こちらも辰野金吾による
 
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マジョリカタイルの浴槽
 
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2階の長い廊下と大広間
 
さほど広くない温泉街をぶらぶらしていると、なにやら、におう、ここは何かある…という路地を発見。
進むと、そこは長崎街道の鍵形道路。廃業した洋風建築の医院が佇んでいたり、幕末の医師、中村涼庵旧宅などがあった。
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旧医院と思われる建築

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武雄温泉のメインストリート?突き当りが楼門

夕飯処を物色しつつ、駅の方までぶらぶら。めぼしいお店がなかなか見つからない。
結局、温泉街に戻り、ちょっと気になっていた和食屋「福太朗」さんで天ぷら御膳をいただいた。揚げたてサクサクで美味しい。
寡黙な板前さんと指示に従うおかみさん、といった感じでひとりカウンター席では少々緊張したが千葉からの旅と知ると気さくな笑顔を見せてくれた。
 
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福太朗さんの天ぷら御膳
 
宿に戻り、ひと休みしてから温泉へ。
楼門をくぐった左手の本館に、元湯と蓬莱湯がある。
地元の人たちも銭湯的に利用している温泉だ。

わたしは昔ながらの元湯へ。
現在使用されている木造温泉施設の建物としては、日本最古(明治9年)とのことで、あの道後温泉よりも古い。

武雄温泉元湯
http://www.takeo-kk.net/spa/001331.php
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ライトアップされた夜の楼門

あつ湯は無理そうだったので、ぬる湯へ。やわらかく、肌がしっとりするお湯だった。
久々の温泉を堪能し、風呂上りにオロナミンCをぐびっと飲みほしてホテルへ戻る。
こうして一日目が終わった。
 
この日の脳内ヘビロテもしくはテーマ曲:「風に吹かれて」森高千里(1994年)


”遠い街ならあなたのこと 思い出にできそうだわ”