Strange Tortoiseの妄想博物館

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稲毛の近代建築散歩─旧日本勧業銀行本店編─

葛飾から千葉に転居して一年になろうとしている。
海岸へは自転車で10分、歩いて30分程度。
天気が良い日にはふらりと、波音を聴きながら沖をゆく貨物船や沈む夕日を眺めたりという贅沢ができるのが大変ありがたい。
いっぽう、埋立地ニュータウンなので歴史ある場所はないのだろうと思っていたが、埋立前の旧海岸線沿いに、興味深い近代建築が残されていることを知った。

寒さも緩んできた桃の節句の日、散歩がてら、見物に。

千葉トヨペット本社(旧日本勧業銀行本店)
散歩の下調べをしていたところ、初めて知ったこちらの建物。
実は転居先候補で内見したマンションのすぐ近くにあったのだが、全く気がつかなかった。
千葉トヨペットのWEBサイトにも「本社屋の紹介」の記載がある(多少、事実関係が不明瞭な個所もあるが…)。
 
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この建物は、建築家・妻木頼黄(つまきよりなか)と武田五一の共同設計により、1899(明治32)年、日本勧業銀行本店として東京麹町区に建てられた(現:千代田区内幸町・みずほ銀行内幸町本部ビル)。

当初は木造2階建だったそうだが、現在は鉄筋コンクリート造となり、屋根は建築当時の木造銅葺が残されているという。
唐破風のある寺院のような木造の銀行建築なんて、当時としてもあまりなかったのではないだろうか。地方都市に擬洋風建築の信金などはあるようだが…。

↓当時の日本勧業銀行本店の写真(ジャパンアーカイブズのサイト)
https://jaa2100.org/entry/detail/047588.html

ちなみに、妻木頼黄による同時期の銀行建築には、横浜正金銀行( 現:神奈川県立歴史博物館、1904(明治37)年、重要文化財)がある。日本勧業銀行とは全く異なる、ネオ・バロック様式の西洋建築だ。

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重要文化財 旧横浜正金銀行本店本館( 現:神奈川県立歴史博物館、2013年撮影)


武田五一は京都を中心に活躍した建築家だが、関東には他に東京都文京区本郷に求道会館(1915(大正4)年、東京都指定有形文化財)が現存しているのみ。
以前、本郷を散策している途中に偶然見つけ「武田五一の建築がこんなところに。珍しいなぁ。」と思っていたものだった。

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求道会館(2016年撮影)

1926(大正15)年9月、日本勧業銀行は本店改築のため、この建物を京成電気軌道株式会社(現京成電鉄)に売却した。
京成電鉄は谷津遊園(かつて習志野市にあった遊園地。1982年閉園)に移築し、「楽天府」と名付けて娯楽場、食堂などとして利用された。
谷津遊園は、子どもの頃に遠足や家族で行ったことがあるが、そんなに歴史の古いところだとは思わなかった。現在は名残りとして谷津バラ園が復元されている。

習志野市立図書館/デジタルアーカイブ「昔の写真で見る習志野の歴史」
https://adeac.jp/narashino-lib/catalog/mp001280-100010

その後、千葉市庁舎として1940(昭和15)年12月に現在の千葉県警の場所(千葉市中央区長洲)に移築され、1961(昭和36)年まで使用された。

↓市役所時代の建物について記載あり(千葉市図書館のサイト)


1963(昭和38)年の新市庁舎落成にともない、市内への移築を条件に、千葉市から千葉トヨペットが譲り受け、1964(昭和39)年秋から復元工事にかかり、1965(昭和40)年10月に完成したのが現在の建物である。木造から鉄筋にしたことで、窓など市役所時代とは印象が変わっている。
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鬼瓦には、勝又グループの社章が埋め込まれている(文化財指定前に入れたらしい)。
1997年(平成9年)、国登録有形文化財に指定。
 
それぞれ違う用途での移築を重ね、多少、姿を変えながらも現在も大切に使われている歴史ある建物。

現在地の前には桜並木があり、毎年「千葉トヨペット桜まつり」が行われているそうなので、春先には桜と建物のコラボレーションも楽しめそうだ。
 
千葉トヨペット株式会社