Strange Tortoiseの妄想博物館

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神戸塩屋の近代建築を巡る(2015年11月)

「塩屋」というタイトルの大江千里の名曲がある(1987年のアルバム「OLYMPIC」に収録)。

その舞台となっている場所はどんなところなのか、気になって訪れたのが、2014年9月。

夏休みを利用した奈良旅のおりに足を伸ばして、塩屋の街を少しぶらりとした。

お洒落な洋館のまち、という先入観を覆す、気取らない庶民的な田舎町、下町のような一面に惹きこまれたのだった。

 

で、突然思い出したように、2年前の見学会の記録を。

 

2015年11月28日(土)に、竹中大工道具館の企画展「近代建築 ものづくりの挑戦」(2015年10月31日(土)〜12月27日(日))の関連イベントとして開催された見学会「神戸塩屋の近代建築を巡る」に参加したときのものだ。

神戸塩屋に残る明治末から昭和初期の洋館をめぐり、地域のまちづくりと一体化した近代建築の活用の様子を見学するというもの。30名の定員に100名超の応募があったとのこと。

 

この日の集合場所は、山陽電鉄滝の茶屋駅。小さいけれど海の眺めが素晴らしい駅。

見学会の案内役は、塩屋在住で洋館の保存活用にもかかわっておられる竹中工務店の松隈章氏だ。

 

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滝の茶屋駅を降りた通りから

 

松隈氏を先頭に駅からぞろぞろと歩いて到着した1軒目は、ジェームス邸。

1934年にイギリス人貿易商アーネスト・ウイリアムス・ジェームスの自邸として建てらた洋館で、ジェームス没後は三洋電機創業者の井植歳男が所有し、同社の迎賓館などとして使用された。

2012年2月に神戸市の指定有形文化財となり、現在は、レストラン・結婚式場「ジェームス邸」として活用されている。

この日も結婚披露宴などが行われており、おじゃまにならないように見学。

 

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リビングの窓の取っ手が植物の蔓のような意匠

 

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塔と地下のバーラウンジの床にあしらわれた泰山タイルが印象的

 

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海を一望できる透明なチャペルは結婚式場としての利用にあたり、竹中工務店の施工により建てられたとのこと。

もしも私が神戸で生まれ育った若い娘だったら、絶対ここで式を挙げたいと思っただろうな、と思うくらい眺めがよくて素敵なチャペル。

 

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敷地内の隣の建物(車庫住宅)も気になる

 

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ジェームス山に登る入口には、こんな番所のような建物が

 

 

次は、ひと駅となりの塩屋にある旧グッゲンハイム邸へ向かう。

ジェームスがイギリス人のために開発した住宅地「ジェームス山」を越えてゆく。

外国のような大邸宅が立ち並ぶ。どんな人々が暮らしているのだろうか。

 

 

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Mt.Jamesと刈り込まれた植栽

 

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山を越えると海が見える坂道を下る

 

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こちらの洋館も気になるが、個人所有でどうなっているのかわからないそう

 

30分くらいかけて歩き、旧グッゲンハイム邸へ。

電車からもよく見えるこの洋館は、ライブやイベントも行われることでも知られている。

こちらでは珈琲と焼菓子をいただきながら、松隈さんとグッゲンハイム邸を管理されている森本アリさんのミニレクチャーを拝聴。

 

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2階のバルコニー部分

 

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2階の部屋

 

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木製のカーテンレール?は、和室の欄間的な和の意匠が

 

ドイツ系米国人貿易商ジャック・グッゲンハイム氏の住まいとして、1909年(1911年という説も)に建てられた。

震災を乗り越えたものの老朽化で長らく空き家状態だったという。

 

取り壊しの危機から家族で購入を決意し、その修理や管理、活用を行う森本さん。

塩屋のあたらしいまちづくりのリーダー的存在の方だ。

塩屋はそういった志ある若い人たちが住みついて、昔から暮らす人々と共存しながら、なにか新しい風を起こせるようなポテンシャルがある場所だと感じた。

 

最後は、旧グッゲンハイム邸のすぐ横にある、旧後藤邸。

赤のふちどりの三角屋根が可愛らしい建物は、1920年代(大正時代中ごろ)の建築。

表は洋館だが、その奥には和風の建物がつながる。和風の方に住まい、表の洋館は来客用としての用途らしい。

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赤がかわいい

 

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窓のところにいるのが、森本アリさんと妹さん

 

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玄関扉の上にはバラのステンドグラス。グッゲンハイム邸を見おろす

 

随所にモダンな意匠がちりばめられている。こちらも2階からの眺めがすばらしい。

現在は神戸市の管理下にあり、有効活用が望まれるところだという。

 

歴史ある古い建物を維持管理、保存していくことの厳しさは想像に難くない。

手放してしまえば、壊してしまえばどんなに楽だろうと思う所有者もいるだろうし、それぞれの事情もあるだろう。

「保存!保存!」といくら外野が叫んでも、当事者にその建物やその土地への愛着がなければ、なかなかひっくりかえすのも難しいのではないだろうか。

 

塩屋についていえば、海に山が迫った狭い地域に、古い街並と高台にはかつて多くの外国人が暮らした洋館が並んでいるという景観そのものが「塩屋」であり、その構成要素である「高台に見える洋館」がひとつでも減ってしまったら…、その「らしさ」が失われていくだろう。

 

魅力的なまちには、愛着をもってまちづくりをしようとする人(とくに若い人)が必ずいるような気がする。

森本さんのような心意気で愛着をもって育てる(保存、活用する)ことができる人がたくさんいればよいのだが。

 

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海沿いの道から眺める「ザ・塩屋」的な景観

 

 

おまけに、洋館だけではない塩屋の一面も。

 

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塩屋漁港

 

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この、ぎゅーんとした橋が好き

 

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こぢんまりした商店街

 

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八百屋さん

 

海沿いの不動産屋の物件案内を眺めながら、「坂が多いから、老後まで暮らすのは厳しいな」とか超現実的なことを考えてしまったが、もし若くて健康で時間的に余裕があれば、少しの間住んでみたかったなぁ、と思わせるまちだった。

 

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山陽塩屋駅の夕暮れ。「塩屋」の歌詞にでてくる2人はどこでどう過ごして、ここから始発で帰るのか。

 

 

参考URL:竹中大工道具館による見学会レポート